洋楽が聴かれない件

新聞で、最近の若者は洋楽を聴かない、という記事を読んだ。ヒットチャートの100位以内にすら洋楽が一曲も入っていないらしい。これをもって日本の音楽産業のガラパゴス化と見る向きもあるようだが、自分はそうは思わない。むしろこれは、かなり緩やかではあるが邦楽の世界進出なのではないかと思う。

 

一つ目の理由は、邦楽自体のレベルが上がったと思われるからだ。

 

私自身は、昔から邦楽よりむしろ洋楽を好んで聴いてきた。何よりビートルズが好きだし60年代から90年代にかけての有名ロックバンドなら大体聴いたことがある。しかし、なぜ洋楽ばかり好んで聴くのかと言えば、正直なところ、邦楽に対し全体的にレベルが低いと思っていたところがあるのも理由の一つに挙げられる。これは全くの主観で、当然そんなことはなく、個人的な無知に由来した偏見でしかないのだが、これまでの邦楽にはそう思わざるを得ないような側面は多少はあったと思う。特に平成の中頃、アイドル全盛期の時代は酷かった。音楽が好きなのか、容姿が好きなのか、はたまたお金を貢ぐ宗教的奉仕行為が好きなのか、何だかよく分からない熱狂的ファンのノイジーマイノリティがヒットチャートを荒らしまくっていた気がする。最近はジャニーズの性加害問題などか取り沙汰されたり、チャートの仕組みが変更されたりなどして、かなりましになったと思う。

 

また最近はボカロやJPOPの数多くの流れの中から多種多様な音楽性を有するアーティスト達が若者から支持を受けており、その楽曲のクオリティ、特に忙しく変化するメロディとその構成の複雑さには目を見張るものがある(耳に目はないが)。邦楽に疎いので、何がどうなっていつの間にこんな形態変化を遂げていたのか知る由もないが、これならヒットチャートに洋楽が一曲もなくても心配無用だろう。

 

二つ目の理由として、洋楽もまた、内向き・ガラパゴス化していることを忘れずに指摘しておきたい。洋楽というのは90年代以降はロックが衰退しヒップホップが主流となっていった流れがある。ヒップホップはなんと言ってもその歌詞に最大のウェイトを置くため、非英語圏に洋楽は伝わりにくくなる。昔は英語が全然喋れないのにビートルズだのレッドツェッペリンだの熱く語っていたおっさん達が沢山いたが、ヒップホップはそうはいかない。この単語とこの単語がこういう発音でこういう風に韻を踏んでいたり抑揚を作っていたりして凄い、みたいな話はある程度その言語に素養がないとできない。だから非英語圏で洋楽=ヒップホップが流行らないのも当然だと思う。無論、日本語のヒップホップはその限りではない(ただし日本人がヒップホップの音楽・文化を受容するにはまだもう少し時間がかかるだろう)。

 

まとめると、邦楽界ではアイドル系音楽が衰退し、それまでサブカルだったボカロや邦ロックから様々なアーティストが生まれてきて全体的なレベルが高まったこと、洋楽の方ではヒップホップが主流となり非英語圏にはその魅力が伝わりづらくなったこと、この二点が日本の若者に洋楽が聴かれなくなった主要因ではないだろうか。

 

更に最近では、昭和の歌謡曲やシティポップが海外で再評価される動きもあるらしい。何故かはよく分からないのであんまり語れないが、この動きに影響を受ける形で、逆輸入的にこれらの音楽を自身の楽曲に取り入れる邦楽アーティスト達も散見される。このムーヴメントを通して海外で日本語楽曲を聴く文化的素地が形成されれば、これら現代の邦楽アーティストにとっても追い風になるだろう。邦楽は今ゆるやかに世界進出しているのではないか。