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ウクライナ戦争の終結について

 アメリカ大統領選が間近に迫っている。予定では、日本時間の11月5日夜から投票が開始し、6日午前9時頃から開票が始まる。接戦にもつれ込むのは確実なので、実際に結果が判明するまで更に数日がかかるかもしれないが、何にせよ今週をもって、アメリカの新大統領が決定されるだろう。どちらが勝利するか予想するのは難しいが、トランプになるかハリスになるかでアメリカの今後の外交方針が大幅に変わるのは間違いない。ロシアや中国と海を挟んで向き合う日本も、この選挙から目を離すことはできない。

 

 特に、今回の大統領選で争点となっている外交上の重要なトピックとして、ウクライナ戦争が挙げられる。現在、ウクライナでは深刻な補給不足が続いており、西側諸国の支援無くしては戦争継続が見込めない状態だ。しかし、各国とも先の見えないインフレと右派勢力の拡大に苦慮しており、無条件での支援継続も難しいと思われる。この流れの延長線上でトランプが当選した暁には、ウクライナに対するアメリカの圧力によって、ロシアに有利な形での戦争終結が予想される。またハリスが勝利した場合であっても、ウクライナに対する支援の継続がいつまで続くかは不明である。西側諸国が冷戦以後に築いてきた世界秩序に対し、ロシアが真っ向から反旗を翻して始まったこの戦争の終結が、今後の国際情勢の行方に巨大な影響を与えることは想像に難くない。そして、この戦争は今まさに、その終結に近づいている。そこで、本記事ではこの戦争の終結のあり方を、私なりに予想してみることとする。

 

 まず、そもそもの話として、この戦争の勝敗は一体どのように判断されるべきなのだろうか。それは、そもそもこの戦争がいかなる目的の下で開始され、現状その目的の達成度にどの程度お互いが満足しているかによるだろう。だとすれば、この戦争の終結を予想するには今一度、この戦争が始まった当初の流れを振り返る必要がある。

 

 この戦争は、2022年の2月24日に始まった。これ以前からロシアはクリミア半島と東部ドンバス地方の一部を占拠していたが、ゼレンスキー大統領の親NATOの方針に対するやウクライナ頭部の親ロシア派勢力の動向など複数の要因があり、プーチン大統領は「特別軍事作戦」の名の下にこの戦争を開始した。当初は限定的な軍事作戦に止める構えも見せていたロシアだが、その言動とは裏腹に、侵攻地域は東部ドンバス地方から首都キエフに近い北部まで、ぐるりとウクライナを包囲する大々的な侵攻であった。しかし、制空権の確保が出来なかったことやウクライナ国民の予想外の激しい抵抗などを受けて、わずか一ヵ月余りでロシアはキエフ方面の戦線から完全に撤退する。以後は現在に至るまで、ウクライナ東部での激しい攻防戦が続いている。

 

 この戦争開始時の流れから、ロシアの側には二つの戦争目的があり、ウクライナの戦争目的がその妨害であることがわかる。二つの戦争目的とは

  1. ウクライナ政府を転覆し、ウクライナをロシアの傀儡国家とすることで、これ以上のNATO防衛圏の拡大を止めること
  2. ウクライナ東部の親ロシア派勢力が多数在住する地域を実効支配し、彼らをロシア国民として解放すること

である。

 ではこの二つの戦争目的は、この戦争の終結においてどの程度達成させられるのだろうか。考えられるシナリオとしては以下の四つが挙げられる。

  • (1)ロシア完勝:ロシアは二つの目的をどちらも達成し西側の国際的地位は失墜する
  • (2)先延ばしの為の停戦:ロシアはウクライナ政府の転覆は出来なかったが、ウクライナNATO加盟も困難な状態が続き、ロシアによる東部の実効支配が続く
  •  (3)双方とも妥協して終結ウクライナは領土の一部を失うが、代わりにNATO加盟が承認される
  • (4)ウクライナ完勝:ウクライナは二つの目的をどちらも阻止し西側による国際秩序が維持される

 

 これら四つのシナリオのうち、最初と最後のどちらかが完勝する可能性は現実的にほぼあり得ないだろう。だとすれば、残るは先延ばしの為の停戦か、双方とも妥協して終結するかのどちらかである。

 ロシア及びプーチンの戦争開始時の大義名分はNATOとの対決にあったのだから、三番目のウクライナNATOに加盟する可能性も低いだろう。だが、もしこのシナリオが実現すればウクライナは今後ほぼ実質的かつ恒久的にロシアの侵攻を阻止することができる。またNATO核の傘の下で経済発展を企図することも可能だ。しかし、そのためには、ゼレンスキー大統領が今ロシアが実効支配している地域を見捨てる判断をした上でロシアを交渉のテーブルにつかさる必要があり、やはり非常に難しいと言える。

 そうなると残りは(2)の先延ばしのための停戦しかない。仮にトランプが当選した場合は、プーチンの側からトランプの顔を立てる形で、この先延ばしの停戦を後押しするかもしれない。トランプが一方的にウクライナに圧力をかける形で、この戦争はロシアの実質的勝利となって幕を閉じるだろう。可能性としてはこれが一番高いと思う。